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アブリスボの有効性と副反応―妊婦へのRSウイルスワクチンを臨床データで考察

 

 有効性:アブリスボは何をどの程度防ぐのか

 アブリスボの臨床的意義は、RSウイルス感染そのものを遮断することではなく、乳児における重症下気道感染症(入院・酸素投与を要するような病態)の発生を減らすことにあります。国際共同第3相試験(MATERNITY試験)では、重症RSウイルス関連下気道感染症(severe RSV-LRTD)に対する予防効果として、生後90日までで81.8%、生後180日までで69.4%が報告されています。1)

 

 一方、受診を要したRSウイルス関連下気道感染症全体(medically attended RSV-LRTD)に対する有効率は、重症化予防ほど高くありません。本ワクチンは「RSウイルス感染を完全に防ぐワクチン」ではなく、「重症化・入院につながる感染を減らすワクチン」と理解するとよいでしょう。

 

 接種時期:なぜ「早すぎず、遅すぎず」か

 アブリスボは、母体内で産生された抗体が胎盤を通じて胎児へ移行することで効果を発揮します。接種直後には十分な抗体移行が期待できず、厚生労働省も「接種後14日以内に出生した乳児における有効性は確立されていない」と明示しています。5) 妊婦への接種から分娩までの間隔が長いほど乳児への抗体移行量が良好であったという報告もあり、対象週数に入った後は出産直前まで待ちすぎないことが実際の運用上の原則となります。1)

 

 日本と米国の推奨週数の違いについて  日本の添付文書および厚生労働省の案内では妊娠28〜36週が接種対象です。4)5) 一方、米国CDCは早産リスクに関する安全性データを踏まえ、32〜36週への接種を推奨しています。3) 後述する早産に関する数字は、このような推奨週数の違いとも関係するため、日米の違いをふまえてご覧ください。接種時期は産科主治医との相談のうえ決定することが重要です。

 

 

 副反応:頻度と性質

 FDA承認審査資料に基づく、妊婦における接種後7日以内の主な局所・全身反応を下表に示します。偽薬(プラセボ)群との比較により、接種に特有の反応(とくに局所反応)と背景頻度を区別して確認することができます。2)

 

副反応 アブリスボ群 偽薬群
注射部位の痛み 40.6%
(1488 / 3663)
10.1%
(369 / 3639)
頭痛 31.0%
(1134 / 3663)
27.6%
(1004 / 3639)
筋肉痛 26.5%
(972 / 3663)
17.1%
(623 / 3639)
注射部位の発赤 7.2%
(264 / 3663)
0.2%
(8 / 3639)
注射部位の腫脹 6.2%
(227 / 3663)
0.2%
(8 / 3639)
発熱(≥38.0℃) 2.6%
(94 / 3663)
2.9%
(107 / 3638)

 ※ 偽薬群はワクチン成分を含まない注射を受けた対照群。頻度はFDA承認資料より。2) 局所反応の多くは軽度〜中等度で短期間に改善したと報告されている。

 

 注射部位の痛みは接種群で際立って高頻度(40.6% vs 10.1%)ですが、頭痛・発熱は偽薬群との差が小さく、これらの症状が接種によるものかどうかの評価には偽薬群との比較が重要です。副反応の多くは一時的であり、重篤なものは稀です。

 

 早産・妊娠関連有害事象:現時点での評価

 早産や妊娠高血圧症候群については、アブリスボの安全性を考えるうえで注意してみられている項目です。以下の数字は、接種した方と偽薬の方で数値上の差があったかどうかを示したもので、これだけでワクチンが原因と決まったわけではありません。

 

項目 アブリスボ群 偽薬群 備考
早産(24〜36週接種・全体) 5.7%
※原資料に症例数の記載なし
4.7%
※原資料に症例数の記載なし
接種群でやや高値
因果関係は未確定
早産(32〜36週接種) 4.2%
(68 / 1631)
3.7%
(59 / 1610)
米国CDCが推奨する接種時期
での数値
子癇前症 1.8%
(68 / 3682)
1.4%
(53 / 3675)
接種群でやや高値
統計的有意差の評価は継続中
妊娠高血圧 1.1%
(41 / 3682)
1.0%
(38 / 3675)
両群で大きな差なし
高血圧 0.4%
(13 / 3682)
0.2%
(6 / 3675)
例数が少なく、解釈には
注意が必要
妊娠関連重篤有害事象(複合項目)
妊娠高血圧症候群・前期破水・早産期前期破水等を含む
4.1%
(152 / 3682)
3.3%
(120 / 3675)
FDA審査において継続評価
対象とされている複合項目

 ※ 偽薬群はワクチン成分を含まない注射を受けた対照群。数値はCDC Evidence to Recommendations(Pfizer RSVpreF)3) およびFDA承認資料2) より。24〜36週接種全体の早産に関する症例数は、原資料(CDCレポート)においてパーセントのみ記載されており、分母が明示されていないため本表でも非掲載としています。

 

 早産の頻度は、報告上は接種した方でやや高くみられています。ただし、この差がワクチンの影響なのか、偶然なのかはまだはっきりしていません。そのため当院では、赤ちゃんをRSウイルス感染症から守る効果と、安全性について慎重に確認が続けられている点の両方を踏まえ、接種するかどうかや接種の時期を産科主治医と相談して決めていただくことをおすすめしています。米国CDCが接種時期を32〜36週としているのも、この点に配慮したものと考えられます。3)

 

 まとめ

  • アブリスボは乳児の重症RSウイルス下気道感染症を減らすことに有効性が示されたワクチンであり、生後90日以内の重症化予防効果は約82%と報告されています。1)
  • 感染自体を完全に防ぐものではなく、「重症化・入院リスクを下げるワクチン」と考えるとよいでしょう。
  • 副反応の多くは注射部位の局所反応であり、一時的かつ軽度〜中等度のものがほとんどです。2)
  • 早産や妊娠高血圧症候群については、接種群で数値上の差がみられたとの報告がありますが、その差の意味はまだはっきりしていません。接種時期は、産科主治医と相談しながら決めることが大切です。
  • 日本での接種対象は妊娠28〜36週、米国CDCの推奨は32〜36週であり、推奨週数は国ごとに差があります。3)4)5)

 参考文献・資料

  1. Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023.
  2. FDA. Package Insert — ABRYSVO (RSVpreF). Pfizer Inc.
  3. CDC. Evidence to Recommendations for Use of Pfizer RSVpreF in Pregnant People. ACIP, 2023.
  4. PMDA. アブリスボ筋注用 添付文書.
  5. 厚生労働省. RSウイルスワクチン(妊婦)に関する情報.
 

 

【監修医】

本田 謙次郎(Kenjiro Honda)

市川駅前本田内科クリニック院長/医学博士
東東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科
総合内科専門医・腎臓専門医・透析専門医・厚生労働省認可 臨床研修指導医

 

略歴

2005 年 東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院・日赤医療センターで初期研修

2007 年 湘南鎌倉総合病院 腎臓内科

2009 年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)入学

2013 年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒業

2014 年 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教

2020 年 市川駅前本田内科クリニック開院・院長就任

その他 宮内庁非常勤侍医、企業産業医等(日本銀行・明治安田生命・日鉄住金建材 ほか)歴任

 

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 このページは、臨床試験や公的資料に基づく内容を患者さんに伝わりやすい表現に置き換えて説明しています。わかりやすさを優先して一部の表現を簡潔にしている箇所がありますが、内容が元文献の趣旨から外れないよう配慮しています。より厳密な記載や詳細な数値については、上記の参考文献および公的資料もあわせてご参照ください。

 

 

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