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常染色体優性多発性嚢胞腎の治療

 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療は、大きく3つの柱で考えます。①嚢胞が大きくなるのを抑える薬(トルバプタン)、②高血圧や脳動脈瘤などの合併症の評価と治療、③腎機能の低下に応じた治療です。どこまでの治療が必要かは、腎臓の大きさ・増大の速さ・腎機能・年齢・ご家族の状況などによって一人ひとり異なります。当院では、腎臓専門外来(多発性のう胞腎外来)で、ガイドラインに基づいた管理を行います。

治療の3つの柱

ADPKDの治療は「嚢胞そのもの」「合併症」「腎機能」の3方向から行います。

 ADPKDは、両方の腎臓に多数の嚢胞ができ、年齢とともに腎臓が大きくなって、腎機能が少しずつ低下していくことのある遺伝性の病気です。治療は、この一連の流れに対して、次の3つの柱で組み立てます。

表1 ADPKD治療の3つの柱

柱 目的 主な内容
①嚢胞への治療 嚢胞が大きくなるのを抑え、腎機能低下を遅らせる バゾプレシン受容体拮抗薬 トルバプタン(サムスカ®)
②合併症の
評価・治療
ADPKDに伴いやすい合併症を見つけて対応する 高血圧、脳動脈瘤、心臓弁膜症、肝嚢胞、嚢胞出血・感染 など
③腎機能に
応じた治療
腎機能が下がってきたときの体の変化に対応する 腎性貧血、高カリウム血症、骨ミネラル代謝異常 などへの治療

 以下では、それぞれの柱について順にご説明します。

嚢胞の増大を抑える薬(トルバプタン)

トルバプタン(サムスカ®)は、嚢胞が大きくなる勢いと、腎機能が悪化する速さをゆるやかにする薬です。

 ADPKDに対して、嚢胞の増大を抑え、腎機能が悪くなる速度をゆるやかにする効果が示されている薬として、バゾプレシン受容体拮抗薬のトルバプタン(商品名:サムスカ®)があります。これは病気を完全に止めたり、嚢胞を消したりする薬ではありませんが、進行のスピードを遅らせることが期待できる薬です。

トルバプタンの対象になる方

「腎臓がすでに大きく、かつ大きくなるスピードが速い時期」の方が対象です。

 トルバプタンは、どなたでもすぐに使う薬ではありません。保険で使える対象(適応)は、次の2つを満たす方です。

左右の腎臓の容積の合計が750mL以上……嚢胞が増え、一つ一つが大きくなって、腎臓全体が正常の約2倍以上に大きくなっている状態です。

腎容積の増大率が年あたり概ね5%以上……腎臓が大きくなるスピードが速い時期になっている、ということを示します。

 つまり、腎臓がすでに大きく、しかも大きくなる勢いが強い時期になっていれば、内服を検討できるということです。これらは画像検査(CT・MRIなど)での腎臓の体積測定や、経過の比較で判断します。対象になるかどうか、いつ始めるのがよいかは、外来で一緒に検討します。

 ただし、総腎容積(腎臓の大きさ)は、「嚢胞がどこまで進んでいるか」をみる目安の一つにすぎません。本当に大切なのは、嚢胞に圧迫されながらも残っている、正常な腎臓の部分(腎機能を担う組織)をどれだけ守れるかです。治療は、嚢胞の大きさだけでなく、この「残っている腎臓のはたらき」を中心に考えます。

導入は入院で・しっかり水分をとる

トルバプタンは尿量が増えるため、十分な水分が必要です。安全に始めるため、開始は入院で行います。

 トルバプタンは、もともと心不全や肝硬変の治療に使われてきた利尿薬の仲間で、内服すると尿の量が増えます。そのため、のどの渇きに応じてしっかり水分をとることが大切です。水分が足りないと脱水になることがあります。

 開始(導入)を入院で行うのは、入院中に、どのくらい水分をとればよいか、尿量はどう変わるか、といった感覚を実際に身につけていただくためです。あわせて、開始時の体の反応や副作用(肝機能の変化など)を確認します。

 なお、トルバプタンは、所定の研修(e-ラーニング)を修了した医師のみが処方できる薬です。開始用量は、通常は1日あたり60mg(朝・夕の2回に分けて内服)から始め、腎機能やその他の状況に応じて調整します。開始後も、定期的な血液検査(肝機能など)で確認しながら続けます。

合併症の評価と治療

ADPKDでは、腎臓以外にも注意すべき合併症があります。見つけて、必要な対応をします。

 ADPKDでは、腎臓の嚢胞だけでなく、全身のいくつかの合併症に注意が必要です。とくに高血圧は早い段階から起こりやすく、腎機能を守るうえでもしっかり管理します。また、脳動脈瘤(脳の血管にできるこぶ)や心臓弁膜症、肝嚢胞などを伴うことがあり、ご家族に若い年齢での脳出血・くも膜下出血の方がいる場合などは、画像検査での確認を検討します。嚢胞の出血や感染が起きたときの対応も、外来で扱います。

腎機能の低下に応じた治療

嚢胞だけでなく腎臓全体をみて、残っている腎臓のはたらきを守ります。

 ADPKDの治療では、嚢胞そのものだけでなく、腎臓全体に何が起きているかを意識します。嚢胞は尿細管や集合管がふくらんでできた袋ですが、腎臓には、血液をろ過する糸球体や血管といった大切な組織もあります。これらに、加齢や動脈硬化による変化、あるいはほかの腎臓病(糖尿病性腎臓病・慢性糸球体腎炎・間質性腎炎など)の合併がないかも、画像や血液・尿の検査から総合的に読み取りながら管理します。たとえば糖尿病をお持ちの方では、嚢胞の大きさの変化とは別に、糖尿病による腎臓の変化がどの程度進んでいるかも合わせて評価し、合併があればその治療も行います。

 腎機能が低下してくると、進んだ段階に応じて、腎性貧血・高カリウム血症・骨ミネラル代謝異常などがみられるようになります。これらに対しては、それぞれの段階に合わせた治療を行います。腎機能が低下したときに体に起こる変化については、「慢性腎臓病が進むと?」もあわせてご覧ください。

当院での診療(多発性のう胞腎外来)

ガイドラインに基づく管理に加え、遺伝・家族性・合併症についての知識もお伝えします。

 当院の多発性のう胞腎(ADPKD)外来では、ガイドラインに基づいた管理と治療を行うとともに、家族性や遺伝、合併症が起きたときの対応方法など、患者さんやご家族に知っておいていただきたい知識もお伝えします。こうした、画像や検査の結果から腎臓の内部で起きていることを読み取る評価は、経験を要する診療で、お一人おひとりで状態が大きく異なります。腎臓専門医・透析専門医が、トルバプタンの適応の検討から、合併症の評価、腎機能に応じた治療まで、それぞれの方に合わせて判断し、管理していきます。詳しくは外来でご相談ください。

▶ 多発性のう胞腎(ADPKD)外来のご案内はこちら

経過観察・治療・トルバプタンのご相談、ご家族に多発性嚢胞腎の方がいる方のご相談を承っています。

参考文献

  1. 日本腎臓学会. エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2020. オンライン資料.
  2. トルバプタン(サムスカ®)添付文書・適正使用ガイド. オンライン資料.

【監修医】

本田謙次郎 院長

本田 謙次郎(Kenjiro Honda)

市川駅前本田内科クリニック院長/医学博士
東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科
総合内科専門医・腎臓専門医・透析専門医・厚生労働省認可 臨床研修指導医

略歴
2005年 東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院・日赤医療センターで初期研修
2007年 湘南鎌倉総合病院 腎臓内科
2009年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)入学
2013年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒業
2014年 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教
2020年 市川駅前本田内科クリニック開院・院長就任
その他 宮内庁非常勤侍医、企業産業医等(日本銀行・明治安田生命・日鉄住金建材 ほか)歴任

最新の医学知識をわかりやすく発信し、地域の“かかりつけ医”として健康を支えます。本記事は一般情報です。診断・治療は必ず医師の診察をお受けください。

 

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