常染色体優性多発性嚢胞腎の治療
嚢胞増大を抑制する、腎機能悪化の速度をゆるやかにする効果のある薬剤として、バゾプレシン受容体拮抗薬 トルバプタン(商品名:サムスカ®)があります。この薬剤の対象(保険が適応される条件)は、左右の腎容積の合計が750mL以上、腎容積の合計の変化率が年あたり概ね5%以上という方です。750mL以上というのは、嚢胞の数が増え、一つ一つが大きくなることで腎臓全体が大きくなっている(正常の約2倍以上になっている)という意味になります。また、5%以上というのは大きくなるスピードがはやい時期になっているということを示します。腎容積がすでに大きく、スピードもはやいという時期になれば、内服を検討できるということになります。
サムスカを導入(開始)するためには、入院下で内服を開始する必要があります。サムスカは、当初は利尿薬として心不全や肝硬変の治療に用いられた背景があり、多尿になるために十分な飲水をする必要があります。入院下で開始する目的は、入院中に正しく飲水量や尿量の知識や経験を取得すること、どの程度飲水をすればよいかの目安を知ることです。サムスカはe-learningを修了した医師のみが処方できますので、修了した医師の名前が記載されているサムスカカードを入院中にお渡しされることが一般的です。サムスカの開始用量は、通常は1日あたり60mgとなりますが、腎機能やその他の状況に応じて調整されることもあります。
サムスカ以外にも、腎機能に応じた治療、嚢胞腎以外の腎臓病の合併があるかどうかのも評価と治療も必要です。腎機能が悪化すると、進んだ段階に応じて、腎性貧血や高カリウム血症、骨ミネラル代謝異常が見られます。詳細については、「慢性腎臓病が進むと?」もご参照ください。嚢胞腎以外の腎臓病として、糖尿病性腎臓病や慢性糸球体腎炎、間質性腎炎などの内科疾患が挙げられます。合併する腎臓病に対する治療、腎臓病の進行度合いに応じた治療を行います。さらに、高血圧や多発性嚢胞腎の各種合併症(脳動脈瘤、心臓弁膜症など)に対する治療を行い、特殊な合併症が起きた時の対応方法や遺伝に関する知識や一般的な対応を嚢胞腎外来では教わることになります。
このように、嚢胞腎外来では、ガイドラインに基づいた管理と治療を行うだけでなく、家族性や遺伝、合併症に関する専門的知識を得ていただくことになります。患者様の状況によって内容が異なりますので、詳細は外来でご相談ください。