心不全の症状、検査と治療
1.心不全の症状
2.診断と検査
3.治療方法
心不全の症状は多岐にわたり、病状が進行するにつれて新たな症状が出現したり、症状が悪化したりします。以下は、心不全の主な症状です。
1)血液のうっ滞により起こる症状
・呼吸困難(息切れ)
最も一般的な症状の一つで、心不全の初期から出現する症状です。心臓のポンプの機能が低下すると、左心室から効率的に血液を拍出できなくなります。左心室の手前には左心房、肺があるため、肺でも血流が滞り、肺に水が溜まります。このため血液への酸素の取り込みが阻害され、息切れの原因となります。特に階段や坂道を上る、重い荷物を運ぶなどなどの活動中(労作時といいます)に息が切れ、さらに悪化した段階では横になると息が苦しくなります。これを起坐呼吸と言い、夜間に眠れず座ったままうつらうつらするといった症状となります。
・浮腫(むくみ)
右心室や右心房の機能が落ちたり、左心房に血液がうっ滞するために右心室に血液がうっ滞したりすると、足や顔、場合によっては腹部に水がたまることがあります。これは、心臓のポンプ機能が低下すると血液が交通渋滞を起こすようになるためです。機能が低下した部位の手前に、血液がたまる結果、むくみや胸水、腹水という形で症状が出現します。
・咳、泡状の痰
左心房に血液がたまり、中の圧力が高まると、肺に水がたまるようになります。時には鉄さび色やピンク色の泡状の痰が混じることもあります。肺は肺胞というとても小さな袋が集まってできていますが、肺の血管の圧力が高まると、肺胞の表面に血液の一部が漏れ出てくるようになります。その結果、鉄さび色やピンク色の痰として出てくるわけです。圧力が高まって漏れ出てきた痰などの液体は気道を刺激し、咳が出ます。気管支喘息のような呼吸となることがあり、心臓喘息と呼ばれています。
・食欲不振や吐き気
右心房で血液がうっ滞すると、その手前(上流)の下大静脈というお腹の血管がパンパンに張ってきます。足や胃や腸からの血流が集まって下大静脈に流れていくため、胃や腸の粘膜がうっ血してむくむようになります。その結果、食欲不振や吐き気を引き起こすことがあります。
2)ポンプ機能の低下により起こる症状
・倦怠感、疲労感
心臓が体全体に十分な血液を送れないと、内臓や筋肉を含む体の組織が酸素やエネルギーを十分受け取れなくなります。この結果、だるさ(倦怠感)や疲労感を感じるようになります。心臓からの血流(拍出)が減り、倦怠感や尿量減少、血圧低下などをきたす状態を低拍出症候群と呼びます。
・頻脈(心拍数の増加)
心臓が1回あたりの収縮で血液を効率よく送り出せなくなると、体の各組織に血流を届けるために収縮する回数を増やそうとします。こうして心拍数が速くなることがあります。
・集中力の低下
脳への血流が十分でないと注意力が散漫になります。思考力や判断力が普段よりも低下します。左心室のポンプ機能がより低下したり、動脈硬化がより顕著であったりすると、この症状はより見られやすくなります。
これらの症状は、心不全が進行するにつれて徐々に悪化することが多いです。適切な治療や管理によって症状を軽減することができますので、医療機関でご相談ください。
心不全の診断には、下記のような診察や検査が行われます。病状に応じて適宜検査を組み合わせて診断します。
・診察
心臓や肺の音を聴診器で聞いたり、足や顔のむくみを確認します。
・血液検査
血液検査で有用な指標は、NTproBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)やBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)です。これらの値が高いと心不全の可能性が高くなります。
・心電図(ECG)
狭心症や心筋梗塞、不整脈がないかなどを確認します。
・胸部X線検査(レントゲン)
心不全に特徴的な所見として、心臓の影が大きく見える、胸水を疑う変化がある、肺にうっ血像が見られる、などが挙げられます。
・心エコー検査(超音波検査)
心臓の壁の動きや、左心室など各部屋の大きさ、弁膜症の有無などを確認します。
心不全の治療は、生活習慣の改善から内服、手術等の侵襲的な治療まで、心不全の程度に応じてどの段階まで必要となるかがかわります。治療の目標は、心臓の機能を改善し症状を軽減すること、慢性心不全の場合は急性増悪を避けることで心機能を維持することです。
1)生活習慣の改善
心不全の治療では、まず生活習慣の見直しが基本となります。
・食事
塩分を摂りすぎると、体内に水分がたまりやすくなり、心臓に負担がかかります。減塩は最も基本的な治療で、一日6g未満の食塩摂取量を目指しましょう。
・運動
適度な運動を続けることで、心臓や全身の血液循環が良くなります。心不全の程度や時期にもよって異なりますので、医師の指導に従って無理のない範囲で行いましょう。
・体重管理
水分をとりすぎると体の水分量が増え、心不全をきたしやすくなります。心機能によりますが、心不全の程度がひどければ水分制限を行うことになります。朝食前の体重測定を行い、急に体重が増えないかを確認することが重要です。また、肥満は心臓に負担をかけますので、食べ過ぎにも注意しましょう。
2)薬物療法
下記の薬が心不全の治療に使われます。病状に応じて、適宜組み合わせて使われることが多いです。
・ベータ遮断薬
心拍数を抑え、心臓の働きを助けます。期外収縮などの不整脈を起こりづらくする作用もあります。
・SGLT2阻害薬
尿から糖を捨てることで、浸透圧効果によりあわせて体内の余分な水分も排出してくれます。心臓への負担を減らし、むくみや息苦しさを軽減します。
・利尿剤
体内の余分な水分を排出し、むくみや息苦しさを軽減します。急性心不全では基本となる治療のひとつです。
・ACE阻害薬/ARB
血圧を下げ、さらにレニン―アンギオテンシン―アルドステロン系というホルモンの流れをブロックすることで、心臓の負担を減らします。
・ARNI
上述のARBという薬にネプリライシン阻害薬を追加したもので、ACE阻害薬/ARBよりもより強い心保護作用を持つ薬剤です。強力に血圧を下げる効果があるほか、ネプリライシン阻害薬はナトリウム利尿ペプチドの作用を増加させます。ナトリウム利尿ペプチドは、血管を拡張させたり、塩分をためこみにくくする働きがあり、結果として心臓の負担を減らします。
・アルドステロン拮抗薬
利尿作用に加えて、アルドステロンというホルモンの効果をブロックすることで、心臓の負担を減らします。
3)医療機器
必要に応じて、心臓の機能を助けるための医療機器を用いることがあります。
・ペースメーカー
ペースメーカーは、心臓に装着して正常な心拍を保つ装置です。心臓のリズムを調整し、疲れや息切れを軽減します。
・ICD(植え込み型除細動器、英語:Implantable Cardioverter Defibrillator)
ICDはペースメーカーの機能に加えて、異常な心拍を検知し、自動的に電気ショックを与えて正常なリズムに戻します。心筋梗塞や拡張型心筋症などで心機能が低下したり心不全症状のある患者さんは、発作や突然死の危険性が高いため、予防的にICDを体内に植え込むことがあります。
・CRT(心臓再同期療法、英語:Cardiac Resynchronization Therapy)
心不全が進行すると右心室と左心室の収縮のタイミングにずれが生じ、さらに心機能が悪化します。CRTは、特殊なペースメーカーを用いて右心室と左心室にペーシングリードを挿入し、同時に刺激を行うことで、収縮のタイミングのずれを補正します。これにより心機能が改善され、心不全の症状が軽減します。
4)手術
病状が進行すると、手術が必要になることもあります。
・冠動脈バイパス手術:
心臓の血流を改善するために行います。冠動脈の狭くなった部分を避けて、新たな血管をつなげて(バイパス)、血液が流れる新しい道を作ります。バイパスとなる血管として、手足の血管、胸やおなかの血管を用いることが一般的です。
・弁修復手術/弁置換手術
心臓の弁が正常に機能しない場合に修復や交換を行います。心臓の弁を交換する弁置換術では、ブタやウシの心臓弁を利用する生体弁、チタンなど金属製の機械弁を用います。
・心臓移植
心臓移植は重症な心不全の最終治療として行われる手術で、亡くなった方の心臓を移植します。
5)心臓リハビリテーション
専門のリハビリプログラムを通じて、心臓の機能を改善し、生活の質を向上させるための支援が行われます。運動療法や栄養指導、心理サポートが含まれます。
心不全の治療は、生活習慣の改善、薬物療法、医療機器、手術、リハビリテーションなど、多岐にわたります。病状は個人個人でかなり異なりますので、ご自身にあった治療法を組み合わせて行うことが重要です。医師とよく相談し、自分にあった治療を見つけていきましょう。