高コレステロール血症
3.症状
4.原因
5.治療
高コレステロール血症は、血液中のLDLコレステロール値が基準範囲を超えて高い状態を指します。この状態が続くと、動脈硬化をはじめとする心血管疾患のリスクが高まります。
コレステロールは、細胞膜の構成やホルモンの生成に欠かせない脂質の一種です。しかし、過剰なコレステロールは健康に悪影響を及ぼします。コレステロールには主に2種類あります。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
余分なコレステロールを血管壁に蓄積させ、動脈硬化を促進します。
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)
血管内にたまった余分なコレステロールを肝臓に運び、動脈硬化を防ぎます。
LDLコレステロールの基準値は140 mg/dL未満、HDLコレステロールの基準値は40 mg/dL以上とされています。LDLコレステロールの値が基準値を超えると高コレステロール血症と診断されます。治療の際のLDLコレステロールの目標値は病状によって異なります。合併症・併存疾患に応じた目標値については後に詳しく説明します。
表1.コレステロールの種類と特徴
高コレステロール血症自体には明確な自覚症状がありません。そのため、ほとんどの場合は健康診断や血液検査で初めて発見されます。しかし症状がないからといって長期間LDLコレステロールが高い状態を放置すると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患を引きおこすリスクが高まります。また、まぶたの皮膚にコレステロールがたまることで眼瞼黄色腫がみられることもあります。
高コレステロール血症の主な原因として、以下のような要因が複合的に作用することが一般的です。
- 食生活の影響
・飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食事
肉の脂身、バター、チーズなどに多く含まれる飽和脂肪酸や、揚げ物や加工食品に含まれるトランス脂肪酸を過剰に摂取すると、LDLコレステロールが増加します。
・コレステロールを多く含む食品の摂取
卵黄、レバー、貝類などのコレステロールを多く含む食品を過剰に摂ることで、血中のコレステロール値が上がることがあります。
- 運動不足・肥満
・運動不足
運動はHDLコレステロールを増やし、LDLコレステロールを減らす効果があります。運動不足はコレステロール値に悪影響を与えます。
・肥満
特に内臓脂肪型肥満は、高LDLコレステロール血症や高トリグリセリド血症(中性脂肪が高い状態)を引き起こしやすいとされています。また、肥満によってHDLコレステロールが低下することもあります。
- 遺伝的要因
・家族性高コレステロール血症
遺伝的に高コレステロール血症になりやすい家系があります。この場合、通常よりもかなり高いLDLコレステロール値が若い頃から認められ、動脈硬化や心血管疾患のリスクが高くなります。
高コレステロール血症の治療は、患者のリスク評価と目標LDLコレステロール値を設定し、生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせて行うことが基本となっています。
1) LDLコレステロールの目標値
患者の動脈硬化性疾患のリスクに応じて、LDLコレステロールの目標値が設定されています。リスク評価は複雑なポイントによって決定されるため、ここでは簡単にまとめます。
表2.LDLコレステロールの管理目標値
非常に高リスクの場合
LDL-C < 100 mg/dL
・冠動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞にかかったことがある場合など
高リスクの場合
LDL-C < 120 mg/dL
・糖尿病、末梢動脈疾患(主に足の血行障害)、慢性腎臓病がある場合
・高血圧、高コレステロール血症、喫煙などの動脈硬化リスクの高い場合
中リスクの場合
LDL-C<140 mg/dL
・男性
50代で動脈硬化リスクが1つでもあると中リスク
60歳以上は中リスク
・女性
60歳以上で動脈硬化リスクが1つでもあるとほぼ中リスク
70代以上は中リスク
低リスクの場合
LDL-C<160 mg/dL
2) 生活習慣の改善
食事療法、運動療法、禁煙は治療の基本です。これらは薬物療法と併用することで、コレステロール値の改善と心血管リスクの低減に寄与します。
・食事
飽和脂肪酸の摂取を減らし、コレステロール値を下げる効果のある食物繊維や魚油を多く含む食事が推奨されます。
・運動
定期的な有酸素運動が重要です。運動はHDLコレステロールを増やし、LDLコレステロールを減らす効果があります。
3)薬物療法
・LDLコレステロール値が目標に達しない場合、または高リスク群に該当する場合は、スタチン系といわれる薬剤が一般的です。この薬は主に血液中のLDLコレステロールを低下させる働きをもちます。スタチンの副作用(筋肉痛や肝機能障害など)が見られる場合は、非スタチン系薬剤への切り替えが検討されます。
・LDLコレステロール値がそこまで高くない場合、エゼチミブやコレスチミド、コレスチラミンなどを用いることがあります。スタチン系やエゼチミブは1日1回のみの内服なので、比較的内服しやすい薬剤です。
・スタチンで十分な効果が得られない場合には、エゼチミブやコレスチミド、コレスチラミンなどを併用することがあります。また、家族性高コレステロール血症などコレステロール値がきわめて高い場合には、PCSK9阻害薬を使用することがあります。
・トリグリセリド(中性脂肪)値の高い患者やHDLコレステロール値の低い患者には、フィブラートやEPA(エイコサペンタエン酸)製剤の使用が考慮されます。これらの薬剤はスタチンと併用されることが多く、これによって心血管リスクのさらなる低減を目指します。