腎臓病とアシドーシス
1.アシドーシスとは
アシドーシス(英語:acidosis)は、体内の酸塩基平衡が崩れ、血液が正常よりも酸性に傾く病的過程を指します。健康な状態では、血液のpH値は7.35~7.45の弱アルカリ性に保たれていますが、アシドーシスが進行するとpH値が7.35未満の状態を指すアシデミアになることがあります。アシドーシスには代謝性と呼吸性の2つがありますが、慢性腎臓病に合併するのは代謝性アシドーシスです。
腎臓は体内の酸を尿中に排泄し、重炭酸イオン(HCO3-)を再吸収することで酸塩基平衡を調節する重要な役割を担っています。慢性腎臓病(CKD)が進行すると、この調節機能が低下し、代謝性アシドーシスを引き起こしやすくなります。

Q:アシドーシスになるとどのような症状が現れますか?
A:初期には疲労感やだるさ、食欲不振などの軽微な症状から始まります。これらは見過ごされがちですが、進行すると筋力低下、筋肉痛、骨痛などが現れます。さらに重症化すると、深く速い呼吸(クスマウル呼吸)、吐き気・嘔吐、意識レベルの低下を起こすこともあります。代謝性アシドーシスには腎臓病が悪化した尿毒症以外にも、乳酸が蓄積する乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシスなど、さまざまな原因があります。アシドーシスを早期に発見することと病態に応じた治療が重要です。
Q:アシドーシスはどのように診断されますか?
A:主に血液検査で診断します。血液ガス分析で血液のpH値と重炭酸イオン濃度を測定し、血清重炭酸イオン濃度が22mEq/L未満の場合に代謝性アシドーシスと診断します。また、アニオンギャップという電解質バランスの評価や、尿pH測定による腎臓の酸排泄能力の評価も行います。ただし、血液ガス分析を行える医療施設は限られているため、血清ナトリウムとクロールの値からアシドーシスの有無を推測することも多く行われます。
アシドーシスは単独で問題となるだけでなく、骨の代謝異常、筋肉量の減少、腎機能のさらなる悪化、心血管疾患のリスク増加など、様々な合併症を伴うことがあります。早期発見と病態に応じた管理が重要です。
腎臓は酸塩基平衡を維持する主要な臓器です。健康な腎臓は以下の機能により体内のpHを適切に保っています。
・酸の排泄:代謝により産生された酸を尿中に排泄
・重炭酸イオンの再吸収 :血液中の重炭酸イオン(アルカリ成分)を回収
・アンモニア産生 :酸を中和するためのアンモニアを産生
表1.慢性腎臓病(CKD)の重症度とアシドーシスの頻度
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区分 |
eGFR値(mL/分/1.73m²) |
アシドーシスの頻度 |
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G1-2 |
60以上 |
まれ |
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G3a |
45-59 |
10-20% |
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G3b |
30-44 |
20-40% |
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G4 |
15-29 |
40-70% |
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G5 |
15未満 |
70-90% |
腎機能が低下すると代謝性アシドーシスが出現し、その程度もより悪化していきます。血清重炭酸イオン濃度が20mEq/L未満になると代謝性アシドーシスの治療対象となります。
Q:アシドーシスは予防できますか?
A:完全な予防は困難ですが、適切な食事管理、定期的な血液検査による早期発見、処方薬の確実な服用、腎機能に負担をかける要因(脱水、過労、感染症など)の除去により、うまく調節することができます。特にCKDステージ3b以降では、アシドーシスの発症により注意が必要となります。
アシドーシスの診断、治療は、医療機関で行うことが基本です。下記の食事管理は、あくまでサポートとして用います。
アシドーシスにおいては、酸を産生しやすい食品を適量に調整し、アルカリ性食品を積極的に摂取することが重要です。
1)酸を産生しやすい食品-適量を心がける-
たんぱく質の代謝過程で硫酸や有機酸が産生されるため、過剰摂取は避ける必要があります。
表2.食品別のたんぱく質の含有量
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食品分類 |
具体例 |
たんぱく質含有量の目安 |
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肉類 |
牛肉、豚肉、鶏肉 |
100gあたり15-25g |
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魚類 |
さば、さけ、まぐろ |
100gあたり15-25g |
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卵 |
鶏卵 |
1個あたり約6g |
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乳製品 |
チーズ |
100gあたり20-30g |
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主食類 |
白米(茶碗1杯150g) |
約4g |
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食パン(6枚切り1枚) |
約5-6g |
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中華麺(100g) |
約12g |
Q:たんぱく質を完全に避ける必要がありますか?
A:いいえ、たんぱく質は体に必要な栄養素です。CKDの進行度(Gステージ)に応じた適切な摂取量を守ることが大切です。一般的には体重1kgあたり0.8-1.0g程度、CKDG4-5では0.6-0.8g程度が目安となります。過度な制限よりも、病期に応じた適正な量を摂取することが重要です。

2)アルカリを産生する食品-積極的に摂取-
野菜類
野菜に含まれるクエン酸やマグネシウム、カリウムなどがアルカリ性の効果をもたらします。
・緑黄色野菜:ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、にんじん
・根菜類:大根、かぶ(カリウム制限がある場合は下ゆでを)
・きのこ類:しいたけ、えのき、しめじ
・海藻類:わかめ、こんぶ、のり
果物類
・柑橘類:みかん、レモン、グレープフルーツ
・その他:りんご、梨、桃(カリウム制限がある場合は量に注意)
Q:アシドーシスとカリウム制限を両方行う場合の食事はどうすればよいですか?
A:以下のような工夫が有効です。
野菜の下処理方法
・小さく切って(5mm角程度)水に30分以上さらす
・多めの湯で5-10分下ゆでしてからゆで汁を捨てる
・この処理により、アルカリ効果は保ちつつカリウムを40-50%減らせます
食材の選択
・比較的カリウムの少ない野菜(もやし、きゅうり、レタスなど)を活用
・缶詰の果物(シロップを捨てる)でカリウムを減らす
1)治療薬
炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)がアシドーシスの標準的な治療薬で、体内のアルカリ成分を補充します。粉末と錠剤の2種類があります。

2)処方例と服用方法
・内服薬:1日0.5-3g程度を分割して服用(通常は1日2-3回)
・服用タイミング:食後が一般的
・重症例では注射薬を使用することもあります
3)副作用と注意点
・ナトリウム摂取量の増加による血圧上昇、浮腫
・胃腸症状(胃部不快感、腹部膨満感、げっぷ)
・心不全がある方は悪化リスクに注意
・他の薬剤の吸収に影響を与える可能性
Q:炭酸水素ナトリウムを服用する際の注意点はありますか?
A:はい、以下の点に注意が必要です。
塩分制限との兼ね合い
炭酸水素ナトリウム1gには約270mgのナトリウムが含まれています。塩分制限がある方は、この分を考慮した食事調整が必要です。
服用のタイミング
・鉄剤、ニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗菌薬などとの相互作用に注意
・食後すぐの服用は胃部不快感の原因となることがあります
Q:日常生活で気をつけることはありますか?
A:以下の点に注意してください。
水分管理
・脱水を避ける(適切な水分摂取:1日1.5-2L程度)
・ただし、心不全や浮腫がある場合は医師の指示に従ってください
感染症の予防
・風邪などの感染症はアシドーシスを悪化させる可能性があります
・手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な予防策を心がけましょう
ストレス管理
・慢性的なストレスは体の酸性化を促進する可能性があります
・規則正しい生活リズムと十分な睡眠(7-8時間程度)を心がけましょう
定期的なチェック
・体重測定(浮腫の早期発見)
・血圧測定
・尿量の観察
アシドーシスは高カリウム血症を引き起こす原因となります。血液が酸性に傾くと、血中のH+が細胞内に移動し、それと引きかえに細胞内にたまっているカリウム(K+)が血中に移行します。腎機能が低下すると、腎臓からのカリウム排泄能力も低下しますので、より高カリウム血症に拍車がかかります。
表3.アシドーシスとカリウム制限を両立する調理法
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食品カテゴリ |
推奨食品 |
調理のポイント |
アシドーシスへの効果 |
カリウム含有量 |
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緑黄色野菜 |
ほうれん草、小松菜 |
下ゆでしてからお浸しに |
アルカリ効果あり |
下ゆでで50%減 |
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根菜類 |
大根、かぶ |
薄切りにして下ゆで |
アルカリ効果あり |
比較的低カリウム |
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きのこ類 |
しいたけ、えのき |
そのまま調理可能 |
アルカリ効果あり |
低カリウム |
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果物 |
りんご、梨 |
皮をむいて適量摂取 |
アルカリ効果あり |
中程度のカリウム |
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缶詰果物 |
桃、みかんの缶詰 |
シロップを捨てる |
アルカリ効果あり |
生より30%減 |
Q:アシドーシスの治療でカリウム値はどの程度改善しますか?
A:炭酸水素ナトリウムによるアシドーシス治療のカリウムへの効果は、患者さんの腎機能、アシドーシスの程度、併用薬剤によって大きく異なります。明確なアシドーシスがある場合により効果が期待できますが、個人差が大きいため、治療中は定期的な血液検査でカリウム値を確認することが必要です。











