バセドウ病と妊娠
1.バセドウ病とは
4.出産と産後のケア
甲状腺が過剰にホルモンを分泌する自己免疫疾患であるバセドウ病は、特に女性に多く見られます。甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌し、体の代謝を調整する重要な役割を担っていますが、この病気ではそのホルモンが過剰に生成され、代謝が異常に活発になります。その結果、頻脈や息切れ、体重減少、疲労感、手足の震え、下痢などの症状が現れます。妊娠中にバセドウ病を持っている場合、母体や胎児の健康に影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要です。
1)流産や早産
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されていると、流産や、早産のリスクが高まる可能性があります。また、甲状腺機能が適切に管理されていない場合は、胎盤の発達や胎児の成長にも影響を与えることがあります。
2)妊娠高血圧症候群・心不全
妊娠中のバセドウ病は、妊娠高血圧症候群や心不全などの危険な合併症を引き起こす可能性があります。
3)胎児の甲状腺機能異常
母体中の抗体が胎盤を通じて胎児に伝わり、胎児が甲状腺機能亢進症を発症することがあります。
1)抗甲状腺薬の使用
バセドウ病の治療で一般的に用いられるチアマゾール(メルカゾール®)は、妊娠初期において胎児への影響が懸念されるため、妊娠初期にはプロピオウラシル(チウラジール®、プロパジール®)、ヨウ化カリウムといった薬が使用されます。妊娠中期以降にはチアマゾールに切り替えることもあります。また、甲状腺ホルモンの量を定期的にモニタリングし、薬の量を調整することが重要です。
2)アイソトープ治療・手術
バセドウ病が抗甲状腺薬で治療が難しい場合は、放射性ヨウ素を用いて甲状腺細胞を破壊するアイソトープ治療や、甲状腺を切除する手術を妊娠前に行うことがあります。妊娠時には難しい治療をあらかじめ行い、甲状腺ホルモンの完全なコントロールが可能となってからの妊娠を推奨することがあります。
出産後、ホルモンバランスが急激に変化するため、バセドウ病の病勢が悪化することがあります。また、チアマゾールやヨウ化カリウムといった治療薬は母乳に移行するおそれがあるため注意が必要です。
【監修医】
本田 謙次郎(Kenjiro Honda)
市川駅前本田内科クリニック院長/医学博士
東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科
総合内科専門医・腎臓専門医・透析専門医・厚生労働省認可 臨床研修指導医
略歴
2005 年 東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院・日赤医療センターで初期研修
2007 年 湘南鎌倉総合病院 腎臓内科
2009 年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)入学
2013 年 東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒業
2014 年 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教
2020 年 市川駅前本田内科クリニック開院・院長就任
その他 宮内庁非常勤侍医、企業産業医等(日本銀行・明治安田生命・日鉄住金建材 ほか)歴任
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本記事は一般情報です。診断・治療は必ず医師の診察をお受けください。