高リン血症とは?原因・症状・治療と副甲状腺ホルモンの関係
1.リンとは
3.高リン血症
6.予防と治療方法
リン(英語: phosphorus)は、主に骨や歯を構成する成分として知られており、体のエネルギー産成や細胞の機能にも関与する人体には欠かせないミネラルです。リンは、エネルギーを蓄えるATP(アデノシン三リン酸)の構成要素でもあり、細胞のエネルギー供給を助けます。また、リンはDNAの構成成分でもあり、遺伝情報の伝達に欠かせない役割を果たしています。さらに、リンは筋肉の働きにも関わっています。過剰に摂取すると健康に悪影響を及ぼすことがあり、特に高リン血症とそれに続く続発性副甲状腺機能亢進症は頻度が高く、注意が必要です。
副甲状腺ホルモン(PTH)は甲状腺の裏側に上下左右4つある副甲状腺から分泌されるホルモンです。このホルモンは、骨からカルシウムを血中へ放出させ、腎臓でカルシウムの再吸収を高めつつリンの排泄を促進し、さらに腎臓の1α‐水酸化酵素を活性化して、食事や日光を浴びることにより合成されたビタミンDを活性型ビタミンDへ変換させるという三つの作用を通じてカルシウムとリンのバランスを維持しています。活性型ビタミンDは小腸でのカルシウムとリンの吸収を高め、血中カルシウムが十分に上昇すると、PTH分泌を抑えるように副甲状腺へフィードバックを送ります。したがって、PTHと活性型ビタミンDは互いに補完しながら体内のミネラルバランスを保っています。PTHが過剰に分泌される状態ではこのフィードバックが追いつかず、骨からカルシウムが過度に流出して骨密度が低下しやすくなるため注意が必要です。
図1.PTHによるカルシウム・リンの調節
高リン血症は、血液中のリン濃度が異常に高くなる状態を指します。通常、腎臓がリンを排出してバランスを保っていますが、腎機能が低下すると、リンが体内に過剰に蓄積し、高リン血症を発症します。腎機能低下以外の原因も含めて、以下に病態を挙げます。
1)慢性腎臓病(CKD)
もっとも一般的な原因です。糖尿病や高血圧などが原因で腎臓の機能が低下し、リン排泄が難しくなり、血中リン濃度が上昇します。
2)がんの骨転移
がんが骨に転移すると、骨が破壊されることでリンが血中に放出されます。
3)圧迫骨折
高齢者に多い骨折で、骨の中のリンが血管へ流出することで高リン血症を引き起こす場合があります。
4)ビタミンDの過剰摂取
サプリメントなどでビタミンDを過剰に摂取すると活性化ビタミンDの作用が過度となり、小腸で取り込まれるリンの量が腎臓から排泄される量を上回って血中リンが上昇します。結果として、高リン血症をきたすことがあります。
図2.圧迫骨折によるリンの流出の例
慢性腎臓病(CKD)が進行すると、腎臓のリン排泄機能が低下して血液中のリンが過剰にたまります(高リン血症)。これを感知した副甲状腺は、副甲状腺ホルモン(PTH)を過剰に分泌します。この状態を「続発性副甲状腺機能亢進症」と呼びます。過剰なPTHは骨からカルシウムを溶かし出し、骨密度を低下させます(骨代謝異常)。さらに、血中のカルシウムとリンが結合して血管壁や軟部組織に沈着し、動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めます。
高リン血症の原因や背景は多岐にわたるため、以下の疾患との区別が必要です。
1)続発性副甲状腺機能亢進症
(上記4章で説明)
2)副甲状腺機能低下症
PTHが不足し、腎臓でのリン排泄が減るため高リン血症となります。甲状腺や副甲状腺の手術後に発症することが多く、副甲状腺を腕に移植する手術が行われることもありました(現在はまれ)。指定難病の一つです。
高リン血症ではありませんが、比較的みられる疾患として下記があります。
3)原発性副甲状腺機能亢進症
PTHが自律的に過剰分泌され、血中カルシウムが高くリンは低い状態となります。腎結石の原因となることがあります。
1)食事管理
高リン血症を予防するために、リンを多く含む食品の摂取を制限することが大切です。特に以下の食材にリンは豊富に含まれています。
① 乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)
② 魚介類(イワシ、煮干し、イカ、エビなど)
③ 肉類(鶏肉、牛肉、豚肉)
④ ナッツ類(アーモンド、クルミ、ピーナッツ)
⑤ 豆類(大豆、ひよこ豆)
⑥ コーラ
2)腎機能の管理
腎臓の健康を守ることが、リンのバランスを保つために重要です。腎機能が低下している場合は、定期的な検査が推奨されます。
3) 薬物治療
高リン血症が進行している場合はリンの吸収を抑える薬を、PTHが過剰に分泌されている場合はビタミンD製剤などを使用することがあります。
7.まとめ
リンは私たちの体にとって重要な栄養素ですが、過剰になると高リン血症や続発性副甲状腺機能亢進症を引き起こし、骨の弱化や血管の病気を招きます。特に腎臓の機能が低下している方は、食事や治療でリンの管理をしっかり行うことが重要です。