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石川県能登半島地震ークラッシュシンドロームについてー

[2024.01.02]

 2024年1月1日、石川県の能登半島で震度7の大地震が発生しました。令和6年能登半島地震で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、瓦礫の下敷きになったり、孤立した家屋に取り残されたりし、今もいつ救助されるのかと待っている住民の方々もいらっしゃることと思います。一刻も早く救出されることをただただ祈るばかりです。

 

 今回の地震の震源地は能登半島の珠洲市(読み方:すずし)から輪島市にかけてを中心に分布し、珠洲市の宝立町(読み方:ほうりゅうまち)などでは津波による被害と思われる海岸沿いの家屋の損壊が見られました。震源である、あるいはこれに近い石川県以外にも、富山県、新潟県などで地震の被害が見られています。珠洲市では、珠洲市のハザードマップが策定され津波が来る際の避難経路(道順)まで公表されていましたが、この機会に皆様もお住まいの自治体の地震ハザードマップを確認されることをおすすめします。

 

 

 今回の地震の映像を見ますと、1階がつぶれ、2階が落ちている家屋が散見されます。兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)でも多く見られていたもので、直下型地震で見られるような縦揺れが影響して、このような倒壊に至ったのだろうということが推測されます。兵庫県南部地震では、地震に引き続く火災が被害を増大させ、道路の破壊と家屋の倒壊によって消防車や救急車を含む緊急車両が目的地に近づけないということが多くありました。輪島市では広範囲の火災が報道されており、被害がなるべく拡大しないでほしいと切に願います。

 

 地震の起こるメカニズムは何なのか、なぜ今回の地震が起こったのか、北米プレートとユーラシアプレートの境界が影響したのかなどについては、専門家の先生方にお任せするとして、医師の視点から地震を見てみたいと思います。災害医療においては、地震の後に起こるクラッシュシンドローム(別名:クラッシュ症候群、挫滅症候群)が震災の被害を拡大させることが知られています。拙著「クラッシュシンドローム」において、クラッシュシンドロームとは何か、治療の際の注意点を詳説しております。

 

臨床雑誌 内科 『クラッシュシンドローム』(本田謙次郎)

 

 クラッシュシンドロームは、兵庫県南部地震で注目された病気(病態)です。兵庫県南部地震では、瓦礫の下で長時間筋肉を圧迫された状態の被災者が、瓦礫から救助された後に搬送中や搬送先で心肺停止となるということが頻繁に見られました。クラッシュシンドロームだけで370名以上の死者を出しており、この病気の人的被害が非常に多いことがよくおわかりになることと思います。

 

 

 クラッシュシンドロームにおいて救助者ができることなどの詳細は拙著をご参考にしていただき、ここでは簡単にどういう病気かをご説明します。瓦礫などで数時間かそれ以上筋肉を圧迫されると、筋肉の細胞が壊れてしまいます。この筋肉が壊れる病気(疾患)を横紋筋融解症といいます。瓦礫の下敷きになっている間は、血流が圧迫されているために壊れた細胞に含まれる物質は血液中にはあまり出ていきません。瓦礫から救助されると遮断されていた血流が再開することで、壊れた細胞の中に含まれるカリウムやミオグロビンといった物質が全身にまわります。その結果、高カリウム血症や急性腎障害などをきたすというもので、高カリウム血症が不整脈を誘発して死に至らしめるという怖い病気です。大量の点滴が対策となるものの、生き埋めなどの状態から救助しながらの対応となるので、難易度はかなり高くなります。クラッシュシンドロームの症状については、「過度なトレーニングに潜む危険」の横紋筋融解症の箇所でご紹介していますので、こちらをご参考になさってください。

 

 このように、医療現場では過去の震災の経験が今日の災害医療に生かされております。今もほぼリアルタイムで伝わってくる地震速報を見るたびに、とても胸が痛みますが、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。また、正月から救助や支援にあたっている皆様におかれましても、本当に感謝申し上げます。一人でも多くの方が救出され、安心して日々を暮らせるようになることを切にお祈りいたします。

 

【1月7日 追記】

 発災から数日間経過した中でも、倒壊した家屋の下敷きになった方が救出されています。下記は、そうした救出を紹介したYouTubeへの動画のリンクです。

 

【令和6年能登半島地震】地震発生から124時間、倒壊家屋に埋もれた90代女性を救出

 

 この動画を見て、助かってよかった、他にも救助を待っている方がいれば一人でも多く救われてほしいという気持ちになりました。と同時に、一医療者の身としては、現地で被災した方々の支援をされている皆様に心の底からありがとうございますとお伝えしたくなりました。少しでも人を救いたいという衝動に駆られるのは医療人の性なのかもしれませんが、きっと全国の多くの医療者の皆様が現地で救援にあたっている方々に敬意と感謝の気持ちを持っておられることと思います。また、遠方から被災地を支援をされている皆様にも、深く感謝申し上げます。

 

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